
『情熱大陸』にも出演し、「おフェロメイク」という言葉で大ブレイクしたヘアメイクアップ アーティスト・イガリシノブさん。夢を目指す若者へのアドバイスや、自身の目標を語ってもらった。
一躍ブームとなった“おフェロメイク”・“おフェロ顔”(ツヤ感肌、上気したような頬、ふっくら唇など、いわゆるフェロモン溢れる顔)の火付け役でもあり、数々の女優やアーティスト、モデルを変貌させてきたヘア&メイクアップ アーティスト、イガリシノブさん。
若い女性だけでなく、40代、50代まで幅広い層に絶大な支持を得ている。また、日本以外にも韓国などアジアでも人気だ。
今年9月には、『情熱大陸』でも特集を組まれたばかり。
今の職業になったきっかけは、「ヘアメイクスクールの先輩にカッコいい人がいたから」という理由。そんな不純な(?)動機から始めながらもブレることなく、夢を追い続けられた理由とは? そして、この先の目標とは?
(イガリさんが手がけるブランド、『WHOMEE』の公式インスタグラムはコチラ)
最初は「親に頼りたくない」という負けん気で続けて来たヘアメイクの道
ヘアメイクの仕事をし始めたきっかけからお話を伺っていきたいのですが、「専門学校でカッコいい先輩がいたからヘアメイク専攻のクラスを選んだ」というのは本当ですか?
本当です(笑)。薬剤師になりたかったんですけど、頭が足りなくてやめて。学生時代はファッションが大好きで原宿でしょっちゅう遊んだりしてたから、そっち系に進もうと思ってバンタンデザイン研究所の夏期講習に行ってみたんです。そしたらヘアメイク科に1つ年上の先輩でカッコいい人がいたので。最初はそんな、不純な動機で入りました。そもそもヘアメイクって職業すら知らなかったし。だから夢を追いかけて……とかそういうのはなかったですね。
ロンドンへ留学もされていますよね。それはヘアメイクの勉強ですか?
いや、ほとんど遊びです(笑)。
ロンドンに行ったことで変わったことはありますか?
自分のマインドはすごく変わりましたね。やっぱり外国の方って、日本人より遊び方が上手だし、誰に対してもフレンドリーなんですよ。それがカルチャーショックでした。それまで、うちは親も厳しかったし、どこか気持ちを抑えて我慢してしまう部分があったんですけど、「人見知りなんて言ってる場合じゃないな」と悟って。留学がきっかけで自分の気持ちを表に出せるようにはなったと思います。行ってなかったらその後の人生、全然違ってたんじゃないかな。
そういう経験を学生時代にしておくってすごく貴重ですよね! それでそのあとヘアメイクさんになられて、10年以上も続いてますよね。「すごくなりたかったわけではない」というヘアメイクの仕事を、「この仕事でいく!」と腹を据えたタイミングとか、何かきっかけはあったんでしょうか。
これ、という出来事は特にないんです。「親から自立したかった」というのが一番の理由でした。
というのは?
先ほども話しましたけど、うちの親ってすごく厳しくて、門限があるような家だったんです。「私の人生は私に任せてくれ!」とずっと思っていました。だから親にお世話になって生きていきたくはなかったんです。にも関わらず、親に学費を払ってもらったり、仕送りをしてもらったりしていた状態で。だから独立してからは「親を負かそう」じゃないけど、途中でやめるなんてことは絶対にしたくなくて、その一心でしたね。昔から負けず嫌いな性格なので。
あとは、24歳でアシスタントについて25歳で独立したんですけど、ご縁あってすぐに梨花さんや加藤ミリヤさんの担当をさせてもらったことは大きいです。正直、そこで引き下がってる場合じゃなかったというか(笑)。やめたいと思うタイミングがなかったのもあります。
その若さとキャリアで、そんな著名な方を任せてもらうってすごいですよね。技術はもちろんだと思いますけど、信頼された理由って、ご自身ではなんだったと思いますか?
う〜ん、おそらく何言われてもへこたれなかったことですかね(笑)。やっぱり忍耐力は大事ですよ。
おフェロメイクやイガリメイクという言葉が流行しましたが、ご自身の名前が売れてきた時どんな気持ちでしたか?
売れてる感覚は特にないです(笑)。でも、「イガリ」という名前が大きいというか、助かってる気がします。「イガリ」って漢字で書くと「猪狩」なんですけど所属しているビュートリアムから、「“けものへん”は怖いからカタカナにしろ」って言われて変えました。
なるほど。他に、人との差別化とか、具体的に何か考えられてやったことはありますか?
まわりを気にしたこと、ないですね。「憧れのヘアメイクさんはいますか?」とかもよく聞かれたりもするんですけど、いないですし。比べ始めてしまうと、「自分はもっと華やかにしなきゃ」とか考え始めてしまって、根本的に伝えたいこととは間違った方向に行ってしまう気がするんです。むしろヘアメイクさんは仲間だと思ってるし、お互いに良くなっていけば、相乗効果でこの業界が盛り上がっていけたらいいなと。それよりも『情熱大陸』でも話しましたけど、アスリートだったり、まったく違う職業の方の考えや生き方は、参考にしますし、リスペクトもしていますね。
『情熱大陸』、私も拝見しました。
ありがとうございます。あれ以来、「情熱のイガリさん」ってよく言われます(笑)。
(笑)。今までとはまた別の層の方から注目されそうですね。
はい。それまでは「メイクが好き」とか、「美容雑誌を読んでる」というような女性から「イガリさんのメイクが好きです」と言ってもらえることが多かったんです。でもあの放送を観てから私個人のことを「すごく好きになりました!」と言ってもらえることが増えましたね。
あまりテレビなどには出ないイメージです。
テレビに出演したの初めてですね。もともと表に出るのは苦手なんです。めんどくさいし、滑舌も悪いし(笑)。でも今の時代は自分で発信していかないとならないなと思っているので、最近はSNSだったり、webメディアのムービーには積極的に出るようにしています。
10月に新刊も出されましたが、本や雑誌などのアナログ媒体、webメディアなどのデジタル媒体はどう分けてるんですか?
メイクのハウツーの場合、紙よりYouTubeの方がよっぽどわかりやすいし、今のメイクテクを学ぶならwebがメインだと思うんですよね。だから、今更メイク本でただカッコいいとか、かわいいものを出したところであんまり意味がないなと思っていて。
今回出した書籍は、ほぼ漫画にしてるんですよ。読み物がメイン。私は日焼け止めをせず過ごしてしまって、手にシミができてしまったんですけど、そんな失敗談をストーリーにしながら、「みんながコンプレックスを抱えている部分をどうすればいいか」というストーリーをベースに作りました。漫画はデジタルでも読めるけど、やっぱりパッケージとして紙で読みたいじゃないですか。圧倒的にそこに良さがある。紙でもデジタルでも、それぞれの意味や役割を考えながらやれたらとは思ってますね。
(漫画は浜田ブリトニーさんに依頼)
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「“アルバイトで2時間働けば買えるコスメ”にこだわりたかった」
イガリさんがディレクターを務めるコスメブランド『WHOMEE』(フーミー)についてもお伺いしたいのですが、ブランドを始めたきっかけを改めて教えてください。
“イガリメイク”という言葉が世に出て、本も出版して、それが“おフェロメイク”総集編だと自分では思っていたんですけど、だんだんとそれがスタートだって気づいたんです。もっと広げていくには私発信ができるところを、基盤としてつくらないとならないな、と思って。それで『WHOMEE』を作りました。一緒にやってくれる企業も自分で探して電話をして……というところから始めて。でも、ただ「アイライナー作りました」とかやっても、それだけじゃ責任持てないし、だったら出さない方がいいと思ったんで、ちゃんとラインナップで出せるところを探しましたね。
ブランドをやっていると、やりたいように自分のメイク理論をどんどん押し付けられるんですよ(笑)。書籍と同じですよね。雑誌の企画などの、ヘアメイクの仕事では他の化粧品ブランドも使うから、私が発信したいことと、ヘアメイクとしての役割の区分けがわかりやすくなった気がします。
ブランドでこだわっていることは何ですか?
まず、バラエティショップで買える価格にしたんですよ。2,000〜3,000円くらいとか、アルバイト2時間分で買えるようにしたくて。昔、友達がモデルやタレントさんが着ていた服をまねしてたくさん買っていたんですけど、そのために借金したりしていたんですね。そういう子たちを近くで見ていて、いくら好きでもそれはどうなんだろうとずっと思っていたんです。必ずしもみんなお金を持っているとは限らないわけだから、誰もが手にとれる価格にしたいというのは、こだわりました。
アルバイト2時間分ってわかりやすくていいですね! でも利益の部分は大丈夫なんでしょうか……?
うちの(会社の)子、できる子が多いんです(笑)。そりゃ、5,000円くらいで売ったほうが稼げますよ(笑)。でも借金してまで女の子がオシャレをしちゃうと、どんどんマインドが下がっちゃうと思うんです。容器の質とかに差はあるかもしれないですけど、中身はちゃんとしています! そんなにそこは謡ってはいないんですけどね。
うちのブランドは、教科書みたいに出していってるんです。買っていけばメイクが自然と上手になっていく、みたいな。その流れを大事にして、続けていきたいですね。
公式インスタでは、ムービーを流したりしていますよね。
はい。アシスタントの子にも出てもらうんですけど、例えばポップアップで店頭に立った時に、お客さんが私だけじゃなくてアシスタントにも声かけてくれるんですよ。お客さんも「SNSに出てた子に教えてもらった」と喜んでくれるんです。それってSNSとかネットがなかった時代には生まれなかった感情だし、活用しない手はないのかなと。
SNSのおかげでチャンスが広がる時代。それを使わない手はない
ブランド立ち上げもそうですし、ブレイクしてからも、より活躍されているってすごいと思います。「好きを仕事にしたい」という子って以前より増えているし、現実的になってきたと思うんですね。やりたいことを続けていくには、何が大切だと思いますか?
今の時代って情報がありすぎて、「これもしたい、あれもしたい」ってなりがちですよね。“好き”がブレがちなのかなぁ、と。あと、夢が叶う、叶わないのスピード感も早い気がします。すぐに次へいかないで、「いつか叶うかもしれない」ということを心の糧に頑張ればいい。インスタを見るとまわりの人の楽しそうな投稿ばかりがUPされているから、他の人はどんどん夢が叶っていて、自分が置いてきぼりになってしまう感覚に陥る人もいると思うんです。そういうのを気にせず、忍耐強く継続していくことが大切。インスタは楽しかったことしか、みんな投稿しないですからね。
メイクやコスメが好きで、イガリさんのように活躍したい子はたくさんいると思うんですけど、仕事として目指した時にイガリさんがヘアメイクを始めた頃と、現代とで違うことってなんでしょうか。
何もかも違いますよね。違いすぎる!(笑)。でも、覚える能力は、私たちの時代の方が良かったんじゃないかな。携帯に写真機能もなかったし、授業や本の内容をとにかく頭で覚えていくしかなかった。そのおかげで、脳の中の引き出しを開けて、作品に活かせていけたんだと思います。スクショした情報をそのまま表現しちゃうと、完全にまねっこになってしまう。ちゃんと蓄積された情報を繋ぎ合わせて自分の作品にしていくようにできるといいですよね。
とはいえ、どう考えても今の方が楽しいと思います! SNSのおかげで、一般の子が表に出られるようになってから街にもかわいい子が増えたし、女の子たちの雰囲気が明るい。メイク道具もいいものが増えてるし、自撮りの仕方もうまいし、すごくいい時代だと思います。
アピールするのが苦手だったり、SNSが得意としない子は、どうすればいいと思いますか? 例えばSHOWROOM配信も、最初は二の足を踏んでしまう……という子もたくさんいるんじゃないかなと。イガリさんももともとは表に出るのが苦手だったとおっしゃっていたので、もし何かアドバイスがあれば。
どうしてもやりたくない、というのであれば、無理することはないと思います。ただ理解しておいたほうがいいことは、SNSはもう今の時代、「普通」というラインにあるわけで、そこから外れることは、その「普通」から外れる……ということは認識したほうが、いいかもしれません。それがわかっているならば良いのかと。
でもせっかく目の前にアピールする場所があるわけですし、自分をかわいくしてくれる材料はあるわけだから、使わない手はないとは思いますけどね。SHOWROOMのイベントで勝ち抜けなかったとしても、そもそも挑戦してるだけでもすごいことだし、素晴らしいと思います。
悩んでいるくらいなら、一度挑戦したほうがいいのかもしれないですね! では最後に、イガリさん自身の目標や夢を教えていただけますか?
表に出るのが嫌だったと話しましたが、『WHOMEE』も出したし自分がもっと出ないといけない、と思って出て、その結果やっぱりお客さんとの距離が近くなったし、それで『情熱大陸』のお話も来たので、発信できるチャンスがすごく増えました。これからも女の子達が自分のすっぴんに自信が持てるようなメイクを発信していきたいです。
メイクした顔がかわいくなることで自信がついて堂々と歩けるし、そうするとすっぴんも好きになるしかわくなっていくものなんですよ。性格すら変わると思う。今後も細々と(笑)、SNSなどを活用しながら発信していけたらいいなと思っています。
編集から
数多くいるヘアメイクアップアーティストの中でも、名前が売れている方は一握りだろう。
今回のインタビューを通して、メイクの確かな技術はもちろんだが、「女の子をかわいくしたい」というブレない想いこそが、長い間第一線で活躍し続ける所以なのだと思った。
ただ派手なことがしたいだとか、有名になりたい、ということではない。地道に継続する力こそが、成功する秘訣なのだろう。
〈撮影=内田裕介(MAETTICO)/取材・文=広瀬蒼乃〉
イガリシノブ(BEAUTRIUM)
10代から40代まで幅広い女性に圧倒的な人気を誇るヘア&アップメイク アーティスト。「イガリメイク」ブームを巻き起こし、著書の「イガリメイク、いちゃう?」はコスメ本としては異例の10万部を記録。ほかに「イガリ化粧 大人のためのメイク手帖」(講談社)、「裏イガリメイク、はいどうぞ」(宝島社)がある。
広瀬蒼乃
出版社でファッション誌や旅系の雑誌編集を経て、フリーランスに。可愛い子探しと、不摂生な生活を送りながらも健康ネタ集めと実践することが好き。昨年より念願の鎌倉暮らしを実現。
現在、SHOWROOMでは新規イベントを募集しています!
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